「教育機関、文化活動のモデルとして」秋本将人

［美術家］

9年前、東京藝術大学大学院美術研究科に所属していたころ、修士課程での研究活動を補うため、四谷アート・ステュディウムに通い始めました。東京藝術大学では学部時代に幾つもの講義やシンポジウム、ゼミに積極的に参加しましたが、4年間で学んだ全てを積み重ねても、四谷アート・ステュディウムで1年間に獲得した知見には遠く及ばないと実感しました。議論を交わしながら、技術そのものを本質的に捉え直し、思考とともに組み立てていく訓練があり、芸術の一領域を超えた、文化や歴史、社会に目を向ける機会に満ちていたからです。

四谷アート・ステュディウムの講師陣は、近畿大学教授であり造形作家・批評家である岡﨑乾二郎先生を筆頭に、芸術や建築、デザイン、哲学などの各分野において、これ以上にないほどのエキスパート、スペシャリストで構成されています。また、これまでに行われた特別講演会では、国内外を問わず、世界的に著名な作家・批評家が数多く招かれてきました。受講生は近畿大学の卒業生や美術系の大学院生にとどまらず、大学での研究に飽き足らないさまざまな分野の学生から、すでに活躍されている作家や批評家、大学講師、学芸員が集まり、はじめて芸術や文化を学ぶ社会人や主婦にも開かれています。
真摯に研究したい者たちが集まり、実際にプロジェクトを立ち上げ、広報宣伝物をつくり、出版物を刊行するなど、総合的・実践的な技術を身につける、これほど理想的な教育機関は、いったいどれだけあるでしょうか。

私にとって四谷アート・ステュディウムの魅力は、9年以上通っても、つねに新たなことが学び得る場所であるというだけではありません。新しい教育機関、文化活動のあり方を示すモデルとして、非常に重要な存在であると考えています。
閉校という事実は受講生のみならず、近畿大学にとって、今後の文化にとって、大きな損失となることは間違いありません。

●受講講座履歴
2004年：岡崎乾二郎ゼミ、芸術理論ゼミ、テキストの回路、DTPデザイン、WEBデザイン講座
2005年：岡崎乾二郎ゼミ、芸術理論ゼミ、テキストの回路、DTPデザイン
2006年：芸術理論ゼミ、THEORY ROUND TABLE
2007年：芸術理論ゼミ、THEORY ROUND TABLE
2008年：THEORY ROUND TABLE（チューター）
2009年：THEORY ROUND TABLE（チューター）
2010年：THEORY ROUND TABLE（チューター）
2011年：THEORY ROUND TABLE（チューター）
2012年：THEORY ROUND TABLE（チューター）
2013年：THEORY ROUND TABLE（チューター）